償いと試練編⑨

ある家庭内の出来事について(記録②)

 

 そのようなことが日を異にして数回発生したある日、彼はついに耐えきれず泣いてしまいました。そのような彼にBの言葉が刺さります。

 「泣くなら外に行って泣きなさい。」

 彼はそれに従いました。玄関を出て、軒先でひとりさめざめと泣いたのです。

 すると背後の玄関の引き戸から音がします。振り返ると、曇りガラスの引き戸を通して、母の影が映っていました。その影は玄関の扉の鍵を閉めにかかっていたのです。

 「僕はこの家には居てはいけないんだ。住んでいてはいけないんだ。」

 悲しみよりも、絶望が彼を支配しました。気づくと、彼は泣きながら走り出していました。

 300メートルほど走ったでしょうか。その付近には当時ミカン畑があり、そこから蛇が飛び出してくるといううわさ話がありました。彼は突然それを思い出し、怖くなって引き返すことにしたのです。

 振り返ると、家の前の路上にBの姿がありました。

 真実は次のとおり記録されています。Bは息子が心配で家を出たのではありません。息子が上げる大声を近所が聞くことで、彼女の世間体が崩壊することを心配したのです。

 

 以上の記録によって、Bが犯した罪が日の光の下にさらされます。これはBが自ら蒔いた悪い種です。いつかBは、これを自分で摘み取らねばなりません。

 そして彼が味わった苦しみは、彼自身が過去に犯した罪に基づくものであり、その清算以外のなにものでもありません。かつて彼が蒔いた悪行の種の一部を自ら摘み取ったのです。

 天の御父は、苦しむ者の額に栄光の印を刻むとはこのことです。だから、先駆者は「地上で苦しむ者は幸いである。」と言ったのです。

 

 そのことはつまり、彼の苦しみがこれで終わるわけではないことを意味します。