償いと試練編⑬

 彼が仕事を始めるようになり経済的に自立すると、これまで彼が依存していた悪い木たちから離れて物事を考えるようになりました。

 彼は悪い木に成った悪い実であることには変わりありませんが、時には、これまでの彼の行いを原因とする苦しみを振り返り、地上における彼の存在理由を考えるようになっていきました。

 しかし、それはふとしたときに訪れる一瞬の考察にすぎません。

 その後もしばらく彼は自分の欲求のまま生活を送り続け、ひととおりの物的満足を得たのちに、これまで自分のために行ってきたことに飽き足りてきたのです。

 そして、彼が地上で肉体を持ってから26年経ったときに一瞬ではありますが、たしかにこう思ったのです。

 「これまで自分のために行ってきたのだから、そろそろ人のために何かをしよう。」

 彼のこの思いは、穂の先にともったかすかな灯火のようなものではありましたが、伝わるべき部門へ瞬時に伝わり、受け取るべき者たちが確かに受け取りました。

 その居場所を失いつつあった彼を補佐する者達は、この機を見逃しません。

 彼は生まれ変わるため、地上生活において日毎の死を向かえるため教え導かれようとしていました。

 同時にそれは、彼にとって臓腑を煮えくりかえすほどの艱難辛苦の体験の幕開けでもあったのです。