償いと試練編⑰

 彼の叔父であるDの自我は、地上生活で利用していた肉体の機能停止とともにそこを離れることとなりました。生前と同じ性格や嗜好を保有したまま、しばらく呆然とそこにたたずんでおりましたが、ふと家に帰ろうと思いつきました。Dにとって唯一の生家があるからです。

 生家にたどり着いたDは生前と同じように兄であるAを頼り、そこに住み着きました。しかし、その姿は肉体を保有していないので、A一家の肉眼には写りようがありません。

 彼が30歳になった時、彼は妻(E)と婚姻し彼の両親と生活を共にしました。一つ屋根の下で生活するという、いわゆる完全同居です。

 しばらくすると、日常生活において些細な行き違いが生じるようになりました。

 きっかけは、彼の夫婦が同居していたアパートから持ち込んだEの雑多な物品の扱いでした。前述したとおり、Eは片付けができないほど物的なものへの執着があることから、その荷物量は相当なものでした。だからといって、捨てようとするとそれは半狂乱になるので、やむなくAの家の車庫に仮置きすることにしたのです。

 AとEは、その際に少しずつ片付けていこうと約束し、約束したまま期間が経過していきました。実はこのとき、Aに裏で苦情を申し立てていた者がいるのです。それがAの妻であるBでした。

 日に日にAの顔色は悪くなっていきます。Aは安逸を好む者です。このような実生活における人間同士の調整など経験がありません。酒量も増えていきます。

 Aは耐えかねて息子である彼に対応を求めました。とにかく、車庫の荷物を片付けてほしいというのです。彼は了解し、妻であるEに片付けるようお願いしました。

 しかし、Eはあれこれと理由をつけて片付けません。

 数日後、彼とEが帰宅すると、強いアルコール臭を漂わせたAが詰め寄ってきます。

 車庫の荷物を今すぐ片付けろ、との主張でした。

 このとき、Eは生理中であり、体調が優れないことを彼は知っていました。もう少し待ってもらいたいと彼はAに頼みましたが、Aは承知しません。

 一方、彼は妻からも強く苦情を受けていました。それでも説得を重ね、ようやくEが片付け始めた時です。Aが酩酊した状態でこのように言ったのを彼は聞きました。

 「おまえもたいへんだな」

 この一言に彼は逆上しました。Aの胸ぐらをつかみ押し倒し、その首を絞めました。それでも酩酊状態のAからアルコール臭は漂い続けました。

 偽善者であるBとの板挟みに遭ったAは、それまでそうしてきたように酒に頼ったのです。

 そして、無意識にもう一人に助けを求め始めました。

 彼の叔父であるDの自我は、このときすでに家にいました。Aの求めに応じ、生前は達成できなかったこととして、まず兄であるAに近づき、次に物的欲求をも同時に叶えようとしたのです。

 低き自我、すなわち地上に未練を残し肉体を去った地縛霊や低級霊、憑依現象と呼ばれるものの正体がこれです。この場合、A自らが扉を開きDの自我と結合することで、肉体なきDに酒を飲み交わすことを可能ならしめたのです。

 Dはこのとき、確かにAの感覚を通して酒を飲んでいたのです。

 生前の未練を達成したいがために。