償いと試練編⑱

 飲酒中、彼の父(A)の顔つきは変貌し、それはまさにAの弟(D)のものでありました。目つきが変わり、耳の形が変わり、声までも変化します。

    彼はその顔に見覚えがありました。それは一見父親のようですが、すでに別人です。かつて彼が一度だけ見たDの姿がそこにあったのです。

    彼の妻はDとは面識がありませんが、後にこう語っています。「今振り返ると、あの時のAは別人だった。いや、人というよりも、なにかこう、例えるなら悪魔みたいな顔をしていた。」

    こうして、無意識にDの影響を受けるようになったAは、腹の虫が治まらぬとますます酒に頼るようになります。Aの心の奥底にはかすかに灯る良心の声がありましたが、このことでさらに心の奥底へ遠退くこととなり、Dの欲求のままに、その肉体を動かすこととなるのです。

   しばらくすると、Aは決まって彼に罵声を浴びせるようになりました。主な発言は次のとおりです。

  • 「この家を出て行け」
  • 「こっちへ来て話をしろ」
  • 「ここに住んでやってるんだと思っているんだろう」
  • 「おれはこの家の主人だ」

 言葉だけではなく、実際に家の敷地の入口に車を駐車させ、仕事帰りの彼が家に入れないよう図りました。

 このようにして、Aの金切声は毎晩続きました。

 Aの妻であるBは、息子である彼の前で必死に仲裁する良き母の姿を見せていましたが、問題を大きくしていたのは実はこのBだったのです。

 忘れてはなりません。Bは偽善者です。その性格は容易に改善されません。

 Bは、息子の前では味方をするようなことを言っておきながら、影ではAを焚き付け息子夫婦と衝突させていた張本人なのです。

 このBのような者へは、次のような言葉が残されています。

  • 「人はその心に現実的な変化が訪れるまでは、その暗黒の境涯に身を置き続けなければならない。」

 彼は彼の妻に相談し、この家を出ることをしきりに相談しましたが、彼の妻は了承しませんでした。

 理由は、「時期が悪い」というのです。六星占術として知られる方法に基づき計算すると、今住所地を動かすことはむしろ破滅を招くといって、その家を出ようとしないのです。

 彼からすれば、すでに破滅は進行しているのです。本来星占いは、人類が必要以上の災禍を受けることのないよう自然法則のパターンを研究し、結果の予測に資するはずのものですが、今回の場合、むしろ彼を苦しめる方向へ用いられてしまったのです。

 このことは次のことを連想させます。今から二千年ほど前に、安息日を厳守することを求められていた地域において、老婆や弱っている人を救うために罰則を恐れず、行ってはならないとされていた行為を平気で行った者がいます。彼は熱病でうなされる者のため安息日に火を焚き、そのために必要な薪を山から切り出すといった労働を行ったのです。それをしなければ病人の体温は下がり、体力を維持させることができなかったからです。後日、彼は安息日に禁止事項を行ったことを戒められました。その時こう言ったのです。

 「人のための安息日であって、安息日のための人ではない。」

 今回の星占いに関する話も似たものです。本来、人のためにある占いが、占いのための人となってしまっています。

 こうして、当時の彼は精神的に追い詰められていきました。対策手段がすべて閉ざされ、絶望の縁に追い込まれていったのです。