償いと試練編㊴

○ 結婚8年目12月上旬

 家庭や職場の暗黒が去り、彼を取り巻いていた地上の課題が水に流れるように解決していった時もありました。しかし、家庭環境を鑑みてなお、彼には考えなければならないことがあり、彼の心は自由にはなりませんでした。

 このころの彼の家庭状況を整理します。

  • 彼は、彼の両親が所有する土地建物に両親と同居している。
  • 彼の同居者は次のとおり。彼の妻、彼の娘(3歳)、彼の両親。
  • 食費、光熱水費は彼の両親がすべて負担している。
  • 彼の通帳は彼の妻が管理している。
  • 同居する際の約束にて、若夫婦から老夫婦へ月数万円を入れることとなっていたが、やがて彼の妻は数々の理由を付して支払いを拒むようになった。
  • この家賃不払いに対して、彼は時には感情的に妻を説得したが効果はない。
  • このほか、彼の妻はことあるごとに自身の正当性を主張し、彼の父母から利益を得ようとしていた。

 そして、彼が頭を悩ませていた課題は次のとおりです。

  1. 彼が妻の仕打ちを堪える。
  2. しかし、彼には真理があるからこれを良しとしても、事実上地上で損害を被るのは彼の高齢の両親である。
  3. 彼の両親への負担が大きくなる。
  4. 彼が彼の妻の行いに対し、神の義を持って諭したとする。これは高い確率で彼の妻には届かず、その行動を改めるまでには至らない。
  5. 1に戻る。

 

 彼は葛藤します。

 何ら対応せずにいて良いものか。

 父母を敬わずして良いものか。

 彼の一人娘に衣食住を与えているのは彼の高齢の両親です。これに対し、彼の給料を握っている彼の妻は一銭も負担しようとはしません。

 仮に彼の両親が崩壊した場合、被害を被るのは彼の娘なのです。彼は、神から与えられし幼い霊を地上で養育すべき義務を負っていることは明らかです。

 彼は彼の妻に寛容であり続けて良いものか。

 その罪を許し続けて良いものか。

 彼の葛藤にかかわらず、彼の母はつぶやき続けます。

「この子の通院費を払っているのは誰か。」

「凍えないよう暖房費を払っているのは誰だと思っているのか。」

 このつぶやきは、彼へ直接苦情として語られるものではありません。彼に聞こえるとわかっていながら、独り言のようにつぶやきます。この母は、このような手法をとることで自分が表に出ることなく、周囲の関係者を動かすことで自分の望ましい方向へ事態を誘導しようとするのです。

 実はこのとき、彼の妻の両親は彼の窮乏を察し、彼の家へ食料を送っていたのですが、これらが彼に届くことはありませんでした。これらは、近所の目を気にする彼の母によって断られていたのです。

 それでも当時の彼は、両親を敬い彼らの基準に適合させ、その財産を保護することで彼らを救済することになるのであれば、今すぐ妻を鞭打つべきと考えていました。

 しかし、人にしてもらいたいと思うことを人にするということは、広く言われているとおりです。彼の妻の数々の罪を許したうえで、彼女に寛容になることは神の正義です。

 このような葛藤があって、彼は神を大いに疑い不安を覚えました。妻を許すという神の義に従うと、両親に負担をかけることになると考えたからです。

 一方で、妻に罪を定めれば、両親の負担は減ることとなりますが、これは妻を裁くことを意味します。